2018年に発行された経済産業省の「DXレポート」をきっかけとして、DXの推進は急務とされ必要性や重要性も高まっています。
しかし、DXが重要だということはわかっていても、DXを何から始めるべきかわからないという方は多いのではないでしょうか。
DX推進においては、経営層がDXについて正しく理解することや、少しずつデジタル化を進めていくスモールスタートを意識することが大切です。
DXの必要性を理解したうえで、DXを何から始める必要があるのか、DX推進の手順やDX推進のポイントを学んでいきましょう。
DXを何から始めるかの前に必要性を知ろう
DXを推進する必要性として主に以下の3点が挙げられます。
- 「2025年の崖」問題に対応するため
- 消費者の行動変化に対応するため
- デジタル・ディスラプションに対抗するため
それぞれを詳しく見ていきましょう。
「2025年の崖」問題に対応するため
「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」内で使われた用語です。
「2025年の崖」という言葉を使うことで、日本のDX推進が遅れている現状や、DXの遅れによって今後巨額の経済損失が起こる可能性があるという日本の危機的状況を表しています。
「2025年の崖」問題のリスク回避のためにはDX推進が必要です。
仮に、「2025年の崖」問題に対応しなかった場合、以下のシチュエーションが想定されます。
- デジタル競争に負けることでビジネス展開のスピードが遅くなり、業績悪化や業界での地位の低下につながる、倒産のリスクが高まる
- 既存システムのメンテナンスが不可になり、業務ができなくなる
- データ流出などセキュリティリスクが高まる
このような最悪のシチュエーションを防ぐためにDXの推進が必要とされています。
消費者行動の変化に対応するため
DX推進は、消費者行動の変化に対応するためにも必要です。
デジタル化が進み、消費者行動は「モノ」の消費から「コト」の体験へと変わっています。
代表的な消費者行動の変化としては、シェアリングエコノミーやサブスクリプションの普及が挙げられます。
例えば、音楽を聴くシーンを考えてみましょう。従来はCDなどを購入して音楽を聴く人が大多数でした。
一方、サブスクリプションの普及により、音楽を聴くという行為は「CDを買う」というモノの消費ではなく「サブスクリプションを利用して音楽を聴く」という体験へと変化していったのです。
このようにデジタル社会においては、消費者行動の変化をいち早く察知することが大切です。
DX推進が遅れると、消費者行動に関するデータが集まらない、もしくは集まったデータを正しく分析できないため、消費者行動を解析できません。
結果、消費者行動に素早く対応できず、デジタル社会で生き残っていけなくなるのです。
このような事態を防ぐためにもDXの推進は必要とされています。
デジタル・ディスラプションに対抗するため
DX推進の必要性として、デジタル・ディスラプションに対抗するためというものがあります。
デジタルディスラプションとは、デジタル企業が市場に参入した結果、既存企業が市場からの撤退を余儀なくされることです。
「ディスラプション」とは「破壊」や「破滅」といった意味をもち、既存企業を撤退へ追い込むデジタル企業のことを「ディスラプター(破壊者)」と表します。
日本国内でもデジタル・ディスプラションによる事例が確認されており、総務省の「令和3年版情報通信白書」によると、SNSサービスmixiや携帯ゲーム業界の大手グリーなどがデジタル・ディスプラションによる影響を受けていると言われています。
DXは何から始めるべき?
DXを推進するには、なんといっても経営層の理解が欠かせません。
経営層の理解を欠いた状態や、DX推進の目的が定まっていない状態では、いくらデジタルツールを導入してもDX推進にはつながらないでしょう。
DX推進の大前提となる知識の獲得や目的の設定、組織体制の構築などのDXを始める手順について解説します。
経営層がDXについて正しく理解する
DX推進には、経営層の理解が欠かせません。その理由は以下のとおりです。
- DX推進は、部署を横断して会社全体で取り組むべきであるから
- DX推進は、長期的視点で取り組むべきものだから
- DX推進にはデジタルツールの導入など、資金投資が必要だから
また、DX推進には現場の協力も必要不可欠です。
経営層が現場の協力を要請したり、DXに関する知識・情報を共有したりすることで、DX推進を主導していく必要があります。
DXに取り組む目的を明確にする
DXはデジタル社会で他社よりも優位に立つための手段です。
そのため、何を実現するためにDXを推進するのか、その目的設定が重要になります。
例えば、業界に新しいビジネスモデルを創出することが目的であれば、そのためにどのような手順やデジタルツール、デジタル技術が必要なのかを逆算できます。
DXの目的は、いわば経営戦略や会社のビジョンと同義であるといっても過言ではないでしょう。
逆に、DXに取り組む目的が不明瞭であったり、DXを目的やゴールと捉えてしまったりすると、DX推進が行き詰まる原因になります。
デジタルツールを導入したりDX部門を立ち上げたりしても、最終的に何を目指すのかが決まっていないため無駄な手順を踏んでしまったり、成果が得られなかったりするのです。
DXを進めた先に何を目指すのかをしっかりと定め、目的から逆算することが大切です。
DX推進の組織体制を作る
DX推進の目的が決まったら、DX推進の組織体制を作りましょう。
DX推進の組織体制として、以下の3パターンが考えられます。
IT部門拡張型 | 従来のIT部門を拡張してDX推進の役割を与える 基幹システムの保守・運用にプラスしてDXを推進することになるため、人材の補強が必要になる |
事業部門拡張型 | 営業部、経理部などの部署内にDX推進の部門を設立する 主導権を現場の人間が握ることで、現場の状況に即したDX推進が期待できる |
専門組織設置型 | DX推進をおこなう専門部署を新たに設置する IT部門と事業部門から人材を集め、両者の観点からDXを推進していく |
DX推進の組織体制作りでは、専門組織設置型が最も多いと言われています。
しかし、どの方法を採用するかは、企業の規模や業種によっても異なります。自社に合った組織体制作りをおこないましょう。
IT資産の分析・評価をおこなう
続いて、自社のIT資産の分析・評価をおこないましょう。
IT資産の分析・評価の手順を簡単に示すと以下のようになります。
- 既存システムの中に老朽化・ブラックボックス化・複雑化しているシステムがないか確認する
- 既存のIT資産を改修・維持し続けた場合の必要経費の試算する
- 新システムの導入もしくは既存システムを改修・維持する
経済産業省の「DXレポート」では、老朽化・ブラックボックス化・複雑化した既存システムがDX推進を阻んでいると指摘されています。
このような既存システムを改修・維持し続けた場合の必要経費を試算し、新システムを導入・運用する際の経費と比較してみましょう。
また、DX推進ではデータを横断的に活用する必要もあります。既存システムにおいては、部署ごとにカスタマイズを繰り返し、横断的なデータ活用ができない可能性も高いです。
そのような観点からも、既存システムを刷新し新システムを導入するのか、または既存システムを改修・維持していくのか分析をおこないましょう。
既存の業務をデジタル化していく
DXの下準備が完了したら、いよいよ既存の業務をデジタル化していきます。
DXの最終段階は、デジタル技術を活用して新たなビジネスモデルやサービスなどの付加価値を世の中に提供するというものであり、その前段階として既存業務のデジタル化があるのです。
いきなり大々的なデジタル化に取り組まず、まずは身近で不便と感じるものや無駄だと思う工程をデジタル化できないか考えてみましょう。
例えば、請求書を紙からデータに変える、Web会議を導入してみるなど、自社にとって取り組みやすいものから始めることをおすすめします。
進捗状況をチェックする
DXの進捗状況を定期的にチェックし、場合によっては計画の修正などをおこないましょう。
DXの進捗を確認するうえで、経済産業省発表の「DX推進指標」が参考になります。
DX推進指標では、自己診断にもとづいてDXの進捗を確認できます。
定期的に自己診断をおこない、持続的なDXの実行につなげることが大切です。
DXの目的を実現する
既存業務のデジタル化を足がかりとして、最終的にはDXの目的を実現しましょう。
具体的には、既存企業のデジタル化によって集めたデータをもとに、顧客のニーズを解析し、新たなビジネスモデルを創出したり、新たなサービスを世の中に提供したりするということです。
デジタル社会における顧客行動は日々変化しています。
DXの目的を実現できたらそこで終わりではなく、常に顧客行動を把握し顧客のニーズとズレが生じないよう、DXの進捗を定期的にチェックし、常に新たな価値を生み出していける企業を目指しましょう。
DX推進における3つのポイント
DX推進においては以下の3つがポイントになります。
- DX人材を確保する
- 他部署との連携を意識する
- 少しずつデジタル化を進めていく
それぞれ具体的に確認していきましょう。
DX人材を確保する
DX推進にはDX人材が必要不可欠です。
DX人材とは、以下のようなスキル・知識などをもつ人材のことを指します。
- IT・デジタルに関する知識
- データ分析・解析スキル
- UI・UXのデザインスキル
- 最新技術への探究心
- 課題発見力・課題解決力
- マネジメントスキル
- コミュニケーション能力
DXでは、単にデジタル技術を活用するだけでなく、集まったデータを分析・解析するスキルや、新たな価値を提供するという点においてUI・UXなどのデザインスキルが必要になります。
また、DXは長期にわたって持続的に取り組むものです。
最新技術をいち早く認知し、取り入れる探究心も求められます。
そのほかにも、現状の課題を発見し解決する能力、DXの進捗やメンバーを管理するマネジメントスキル、DXを円滑に進めるためのコミュニケーション能力などが必要です。
このように、DXを推進するためにはさまざまなスキルを身につけたDX人材を確保する必要があります。
社内に適した人材がいない場合は外部に依頼することもひとつの手です。
しかし、デジタル技術の発展をベンダー企業に一任していたことが日本におけるDX遅れの要因でもあるため、最終的には社内でDX人材を育成できる環境を構築する必要があります。
他部署との連携を意識する
DX推進においては、他部署との連携を意識することが大切です。
従来のように、部署ごとの適正化・デジタル化では部署を横断したデータ連携などができません。
横断的なデータ連携ができないと、せっかく集めたデータの活用が限定的になってしまいます。
各部署から人材を集めてDX部署を設立するなど、DXの組織体制作りの段階で他部署との連携を意識しておきましょう。
少しずつデジタル化を進めていく
DXでは、いきなり大々的なデジタル化をおこなうのではなく、少しずつデジタル化を進めていくことが重要です。
まずは既存業務の中で改善したい点を洗い出し、デジタル化できないか検討していくことから始めましょう。
導入しやすいデジタル化のツールやWebサイトとして以下のようなものがあります。
- Web会議システム
- 会計ソフト
- ビジネスチャット
- デジタルカレンダー
- 請求書・納品書などの作成サイト
- 電子署名システム
- オンラインストレージ
DXの目的から逆算し、どのようなデジタルツールがあったらよいかを考えると、デジタル化を足がかりとしてDXにつなげやすくなります。
DXの理解を深めてDXに取り組もう
DXはデジタル社会で生き残り、他社よりも優位な地位を獲得するために欠かせません。
DXはデジタル化やデジタルツールの導入から始めるのではなく、まずは経営層がDXについて理解を深め、DXの目的を制定することからDXは始めるべきです。
DXを推進する土台作りが完了したら身近なデジタル化から取り組みましょう。
取り組みやすいデジタル化の例として、オンラインストレージがあります。
オンラインストレージとは、仕事で使うファイルなどをインターネット上で保存・共有できるサービスです。
オンラインストレージは直接DXにつながるわけではありませんが、DXを進めるうえで欠かせないペーパーレス化のステップを実現できます。
DXのステップとしてオンラインストレージを導入する際には、中小企業に最も選ばれているオンラインストレージ「セキュアSAMBA」をぜひご検討ください。