DXという言葉や取り組みが一般的になる中で、DXとはなにかについて理解し、説明できる人も増えています。
実際に、DXに取り組む企業も増えつつありますが、DXを推進するうえでは、課題が生じることも事実です。
DXの課題が生まれる原因や具体的にDXにはどんな課題が生じるのか、DXの課題を解決するための解決策について考えてみましょう。
DXの課題を解決することはDX推進に不可欠
DXの課題をなぜ解決しなければいけないのかという必要性とDXの課題をそのまま放置した場合にどのようなリスクが生じるのかについて見ていきましょう。
2025年の崖を回避するためにDX課題の解決が必要
2025年の壁とは、国内企業、中でも大企業の基幹となるシステムを、現状のまま放置した結果、2025年に大規模な経済損失が生じる可能性があることを指します。
基幹となるシステムとは、事業をおこなううえで重要な核となるシステムのことであり、主な具体例として、販売・生産管理や勤怠管理をおこなうシステムなどが挙げられます。
現在の基幹となるシステムは、長きにわたり場当たり的にアップデートをおこなってきた結果、複雑化しているのが現状であり、「基幹系システムのブラックボックス化」とも言われています。
システムの運用保守をおこなう現場では、基幹となるシステムの保守業務は属人化しており、担当者以外には中身がわからない状態になっているケースも多くみられます。
やがて、担当者が定年退職を迎える、あるいは、システム自体が老朽化することで、システムダウンや大量のデータを損失してしまうというリスクが生じるのです。
こうした状況のままでは、2025年までに多くの企業が大きなダメージを受けるため、DXどころではなくなってしまいます。
2025年の壁は、DX推進を阻む大きな要因であるため、まずは既存システムを刷新することが優先して取り組むべき課題とされています。
市場で生き残るためにもDX課題の解決は必要
急激な変化を繰り返すビジネスシーンでは、問題解決や判断を下すまでの、スピード感や俊敏さが重要になります。
変化の激しい市場では、ビッグデータやデジタル技術を活用した問題解決を繰り返しつつ、企業として成長することが求められます。
しかし、DXの課題を抱えたままでは、ビッグデータやデジタル技術を活用することができないために、ほかの企業のスピーディーな成長についていけないばかりか、市場で生き残ることすら困難になってしまいます。
特に、コロナ禍で、生活や仕事に対する人々の意識が大きく変化したこともあり、既存のビジネスモデルでは将来性を見出せません。
そのため、競争の激しい市場で生き残るためには、DXの課題をいかにスムーズに解決できるかが重要になるのです。
DXの課題が解決されれば、スピード感のあるDX推進が実現し、市場で優位性を保つことも可能になるでしょう。
DXの課題が生まれる原因とは
なぜDXを進めるうえで、さまざまなDX課題が生じることになるのでしょうか。
DXの課題が生まれる原因について考えてみましょう。
抜本的な変革によって大きな負荷から
DXは、単なるデジタル化ではなく、既存のビジネスモデルに対する価値観を破壊的に覆すものでなければいけません。
新しいシステムやツールを導入する、手法や意思決定に関する価値観を抜本的に変えるなど、組織内には大きな負荷がかかります。
DXに取り組む前に既存のビジネスモデルは変えなければいけないと理解していても、DXを進めるうえで実際に業務に関わる大きな変化を実感することで、組織内には相当な負荷がかかります。
すると、人によってはDXに対する疑問や反対意見を感じることもあり、DX推進を阻む要因になりかねません。
DXを進めるうえで課題が生まれる原因には、DXがもたらす変革があまりにも破壊的であることで組織内に疑問や反対意見が生まれ、スムーズにDXが進められなくなるということが挙げられます。
変革の規模が大きいから
DXは、部署を横断して組織全体を変えていく必要があります。
しかし、組織全体を変革することは規模が大きすぎることもあり、DXを同じ濃度で組織全体に浸透させていくことはかなり難しいものです。
スムーズにデジタルへと移行できない、業務プロセスが変わることで生産性が一時的に低下するなど、DX推進のステップが進むにつれて生じる課題のボリュームは増えていきます。
DXを進めていくうえで課題が生じるのは組織全体という大規模な取り組みであることから、DXのステップを共通化、組織化しづらいことが原因になるのです。
DXの本質や目的を理解していないから
人によってはDXとデジタル化を混同してしまうなど、DXの本質を理解していない場合も考えられます。
あるいは、DXを導入する目的が周知されていないために社員は言われるがまま、オペレーションの変更をおこなっているかもしれません。
DXの本質や目的を理解していないままDXを進めると、DXは単なる手段のようだと思い込んでしまいます。
その結果、いつの間にか途中でDXの方針が変わったり、スムーズに進まないからとDXの取り組みを保留にしてしまったりすることも考えられます。
社員からすると、これまでの取り組みが無駄になったと感じられ、実際に手を動かした社員のモチベーションは下がってしまいます。
そもそもDXを進めるうえで課題が生じるのは、DXの本質や目的を理解していないことが原因として挙げられます。
DXに不向きな業種や業界だと思い込んでいるから
対面が必要とされる医療や介護などの業種やDXに必要な人材や予算を確保しづらい中小企業では、「自社はそもそもDXに不向きだ」と思い込んでしまいがちです。
業種や業界に関わらず、DXへの疑問や不安が起こるのは当然のことですが、そもそも「DXに不向き」と思い込んでいることで、「DXを進めていくうちに多くの課題が生じた」と感じてしまうのです。
視点を変えたり、専門家に相談したりすることもできるはずですが、このような思い込みもDXを阻害する原因となってしまうのです。
DXの課題とは
DXが抱える課題とは、どのようなものかを具体的に見ていきましょう。
DXに関わる人材不足
総務省が発表した、「情報通信に関する現状報告(令和3年版情報通信白書)」によると、日本企業がDXを進めるうえでの課題で最も多い回答を集めたのが「人材不足」でした。
また、経済産業省が発表した「経済産業省 IT人材需給に関する調査(概要)参考資料」によると、IT人材は2030年に最大79万人不足するとも予測されているほど人材不足の事態は深刻です。
DXを導入したい、DXを進めたくてもそもそもデジタル技術に精通した人がいなければ始まりません。
特に、DXを進めるにはITツールを使いこなせる程度の人材では器量不足であり、DX推進に必要な高度なスキルや技術が必要とされます。
2025年の壁のタイムリミットを目前に控え、イチからの人材育成では間に合わない部分もあるため、DXの人材不足は多くの企業が優先すべき課題と捉えています。
DXに対する価値観の違い
DXの課題として、DXに対する価値観が組織内で異なることが挙げられます。
特に、年齢的や思想的にデジタル技術に抵抗を示す経営層の場合は、DXの見通しに危機感をもたず楽観視しているとも聞かれます。
DXの危機感を具体的に挙げると、2025年に訪れると予想される大規模な経済損失に巻き込まれる、市場における自社の領域が消滅してしまうのではないかと感じることです。
こうした危機感をもたず、「資金がかかる」「よくわからない」と理由をつけて行動しないと、いつまでたってもDXを進めることはできません。
DXに対する価値観が組織内で共通化されないことが、DXを進められない課題となっているのです。
DXのビジョンが確立されていない
DXで実現したいことはなにか、DXで生み出される価値はどのようなものかというビジョンが明確になってこそ、それに続く事業戦略や具体的な方針をたてることが可能になります。
多くの場合は、経営層や上位管理者が主導をとってビジョンを打ち出していく必要がありますが、組織内でDXの価値観が異なると、こうしたビジョンが不明瞭になってしまいます。
DXのビジョンが確立されていないと、DX実現に向けた方法や行動規範を策定することができず、具体的になにから手をつけていいのかがわかりません。
DXのビジョンが絶対的なものとして確立されていないのであれば、DXを進める以前の課題と考えて対処することが必要となります。
DX投資の方針が固めにくい
新型コロナウイルス感染に端を発した影響により、多くの企業が先行きに不透明さを感じています。
業績が落ちて目の前の資金繰りで手一杯であれば、DXに対して積極的な投資をおこなうことに抵抗を感じる企業もあるでしょう。
DXは、すぐに効果を感じられるものではないため、DXへの投資効果も、数年後の業績で評価するしかありません。
こうした投資効果が不透明なものに対する予算方針を固めにくいことは、DX推進の大きな問題となるのです。
DXに不安を感じている
ビジネスモデルを大きく変革するDXでは、新たな取り組みや価値観が求められるため、大きな不安を感じる人も少なくありません。
不安の要素は人それぞれですが、「デジタルに詳しくないために、ほかの社員に追いつけなくなる」「仕事で失敗してしまうかもしれない」といったものがあるようです。
組織内で不安を感じる社員を放置することは、組織が一体となってDXを進めるうえでの阻害要因となってしまいます。
DXを進めるうえで、いかに社員が不安を感じないように対策を講じられるかが、経営層に求められる課題となるでしょう。
IT基盤が整備されていない
DXを進めるうえでは、IT基盤の整備は必須となります。
しかし、既出のようにIT人材が不足していたり、デジタル化が進んでいなかったりすることで、DXを進めたくても進められないという状況に陥ってしまいかねません。
特に、DXでは、通常の業務をおこなうシステム部門とは別に、DX推進のための部署を用意しなければ、担当者にかかる負担が大きくなってしまいます。
また、中小企業では社内リソースだけでは限界があることも考えられます。
DXを進めるには多くの課題がありますが、多様な働き方に柔軟に対応するためにも、IT基盤が整備されていない環境はただちに改善しなければならないと認識しましょう。
DXの課題を解決するには
DXの課題を解決するための解決策について見ていきましょう。
DX人材の育成
DXの課題である人材不足を解決するために、DX人材を育成することが求められます。
ただし、DX人材では単にITに関する知識を有するだけではなく、デジタル技術を十分に活用し、組織全体の変革をリードできる人物でなければいけません。
DX人材の候補者を社内から選び、外部の専門家による研修を受け、多様な経験やスキルを蓄積させましょう。
一方で、企業はDX人材に対して、評価基準の仕組みを整える必要があります。
課題の多いDX推進では、DX担当者には大きな負担がかかるため、DXに対する貢献度を指標に設け、給与に反映させます。
DX人材が正しく評価されていることが周知されれば、社内でDX推進に貢献したいと希望する人材が増えることも期待できるでしょう。
DXのビジョンを明確にする
DXでなにを実現したいのかという、DXのビジョンを明確にしましょう。
まずは、DXがただのデジタル化ではなく、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルと組織構造の変革は、継続するべきものであることを深く理解しましょう。
経営層がDXを理解し、DXのビジョンを揺るぎないものにすることで、社員やステークホルダーに対し、自社の経営戦略や行動指針を明確に説明することが可能になります。
組織内にDXビジョンが浸透すれば、全社員がDXに対する共通意識をもつことができます。
実現すべきDXの将来像が見えることで、「蓄積したデータは積極的に活用しよう」「必要なIT環境を整えよう」と、次へのステップへと進みやすくなり、DXへの取り組みも加速されるでしょう。
DXに対する不安を取り除き積極的な協力を促す
経営層がDXのビジョンを明確にしても、DXに対して不安を感じている、必要性を理解していない社員には響きません。
DXが進まないという課題を解決するには、DXに対して積極的ではない社員に対し、理解や協力を得ることが解決策のひとつとなります。
協力を得るためのフェーズとして、まずはデジタル知識に詳しくない社員に対して、DXに取り組む背景や自社が抱える課題、現状を放置した際に生じるリスクなどを説明します。
次に、すでにDXに取り組んでいる部署の効果や手応えを検証し、未導入の部署へ提示してみましょう。
実際に取り組んでいる社員が、「効率が良くなった」「思いのほかすんなり実行できた」とわかれば、DXへの抵抗や不安を払拭することができます。
DXに対する理解や協力の意志が得られれば、あとは、部署の業務にDXの具体的な取り組みを落とし込み、スムーズな実行へとつなげることができるでしょう。
DXに不向きな業界でも活用できるデジタル技術を導入する
DXには不向きだと思われている医療業界や飲食、アパレル業界においても、DX推進を停滞させてはいけません。
例えば、医療業界であれば、すでに電子カルテが導入されています。DXでは一歩前進して、電子カルテの文字を音声入力によって記入する技術が活用されています。
患者や関係者への説明をおこなったあとに、改めて電子カルテにキーボードで入力する手間が減るので、業務効率化に大きく作用します。
上記の例はあくまでも一例に過ぎませんが、DXが進めにくい業種や業界であっても、最初から無理だと決めつけずに、デジタル技術を活用できる部分はないか、積極的に検討してみましょう。
既存システムの分析・評価
既存システムが長く使われ、アップデートが繰り返されてきたことで、複雑化している場合は、維持管理費のためのコストが多くかかるうえに、2025年の壁を回避できないリスクが発生します。
DXを進めるうえでは、新しいシステムを再構築するために、こうした既存システムを分析・評価して、目的に応じて必要か不必要かを選定しましょう。
独立行政法人情報処理推進機構が公表した、「プラットフォーム(PF)デジタル化指標」の資料では、自社のシステムが、DXに対応できる要件を満たしているかを分析し評価することが可能です。
プラットフォーム(PF)デジタル化指標を活用することで、既存システムを評価し、どこに問題があるかを明確にすることができます。
また、対策が必要とされる箇所を特定し、優先順位を決めるための情報を知ることができます。
DXに取り組む企業の経営層やDX担当者は、プラットフォーム(PF)デジタル化指標を活用し、必要であれば専門家の助けを借りながら、既存システムの分析・評価をおこなうことでスムーズな課題解決を目指しましょう。
システムの再構築
システムの分析・評価によって選別されたシステムの再構築をおこないましょう。
この際、再構築にかかるスピード感も重視したいところです。
その理由は、再構築の工程に長い時間を要すると、時間的コストがかかり、「慣れ」によるモチベーション維持が困難になるからです。
スピードを意識したシステム再構築の作業は、優先順位に沿って、小さなサイクルから実装とテストを繰り返して、開発された集合体として大きなシステムを作り上げる「アジャイル開発」を活用しましょう。
システム再構築の際に、現場社員の抵抗や、現行システムが複雑化したことで仕様が再現できないなどの課題が生じることもあるでしょう。
しかし、やがてビジネスモデルが大きく効率化されることを目標に掲げた取り組みを心がけましょう。
DXの課題を解決してスムーズなDX推進を
DXに取り組む企業の多くは、課題の大小はあるにしても、DXで生じる課題に頭を悩ませています。
しかし、経営層がDXを深く理解しビジョンを明確にすること、IT基盤をしっかりと整備することを守ることで、課題解決へと一歩ずつ近づけるでしょう。
まずは、自社がDXに抱える課題をしっかりと把握し、最適な解決策を見つけ出すことが、DX推進のカギになります。
DX課題を解決し少しずつでも着実にDXを進められるようにしていきましょう。